『 横顔 ( プロフィール ) ― (3) ― 』
§ 島村フランソワーズ夫人 の見解 ( 承前 )
るるる〜〜〜〜ん ♪
自然に口元からは歌がこぼれてしまう。
「 うふ? やあねえ もう〜〜 わたしったら(^^♪
るるる〜〜ん♪ だってシアワセなんですもん〜〜〜 」
もう何回も 何十回も 左手の薬指を眺めて ― にっこり。
朝陽にぴかぴか光る真新しい指輪が 今の彼女の全てを現している と思う。
わたし。
結婚したんだわ 〜〜〜
ふふふ ふふふふ〜〜
わたし ね。
島村フランソワーズ っていうの。
わたし ジョーの奥さんなの
島村さんの奥さん ・・・?
きゃ〜〜〜〜〜〜(^^♪
Oui,
Madame Shimamura
きゃ〜〜〜〜
ひとりで 微笑んで はにかんで 笑って 可笑しくて。
キッチンで ひとりきりで最高に盛り上がってしまった。
「 ふふふ 〜〜〜 さあ 朝ご飯ね! 」
新婚ほやほや〜〜の朝ごはん☆
べつに今までとは 場所も変わらず朝陽の中で迎えた朝食なのだが。
( ジョーは 珍しく起こさなくても起きてきた )
「 おはよう〜 フランソワーズ 」
「 おはよ ジョー♪ うふ(^^♪ 」
見つめあって 軽くキス♪ おはようの キス♪
「 うふふ ・・・さあ 朝ご飯にしましょ
あ ジョー コーヒー お願いね 」
「 おっけ〜〜 ああ もういい感じに沸いてるじゃん 」
とぽぽぽぽ ・・・ カップに落ちる液体までシアワセそう?
「 はい オムレツ。 コーヒーはミルクとお砂糖、でしょ 」
「 ありがと フランソワーズ。 いい匂いだねえ 」
「 ふふふ そうね〜 」
彼は いただきます と手を合わせ、静かに箸と取り上げる。
うふ ・・・
この感じ、好きなのよねえ 〜〜
フランソワーズは こっそり・・・夫の横顔を惚れ惚れ見つめる。
お皿の上は どんどん空になったゆく。
「 ・・・ ん〜〜 美味いなあ〜〜 これがウチの味だよね
きみのたまごやき 最高だよ 」
「 ありがと ジョー。 ( オムレツ なんだけど。
まあ いいわ。 オイシイって言ってくれるんだもの ) 」
「 んん〜〜 あの さ。 ひとつ お願いがあるんだけど 」
「 はい? なあに 」
「 ― うん。 一日のうちでさ 一回はご飯食べたいんだ。
できれば 味噌汁も 」
「 え ― 二ホンの朝ご飯 がいいの? 」
「 いや 朝はパンにコーヒーでもいいよ?
ただ やっぱ ご飯と味噌汁が さ、ウチのメシにあっても
いいと思うんだ。 」
「 ・・・ わたし おみそしる って作ったことないかも 」
「 あ いいんだ いいんだ ぼく 作るし。
なんならインスタントでもいいんだ 」
「 でも ・・・ ウチのご飯にインスタントって ・・・ 」
「 う〜〜ん まあねえ ・・・
あ 味噌汁ってさ そんなに難しくないよ、小学生の調理実習でも習うし 」
「 へえ ・・・学校で?? 」
「 ウン。 ぼくも学校で覚えたもん。
あ〜 うん。 味噌汁はぼくが作る。 ゴハン 炊いてくれる? 」
「 あ のう〜〜〜 専用のマシン、使っていい のよね?
キッチンにある アレ。 」
「 もっちろ〜〜ん☆ ウチの炊飯器はねえ ハイブリッドですごいよう〜〜
調整ひとつでものすごくウマいご飯が炊けるんだ 」
「 それなら ・・・ できそう 」
「 頼みます。 スイッチひとつだもん、簡単さ。
あ このさあ 浅漬け・サラダ、 いいね〜〜 うまい。
きみって つけもの、できるんだ? 」
「 ・・・ 浅漬けの元 っていうのがあって ・・・
それ 使ってるだけよ 」
「 そうなんだ? でもすごく美味しいよ。 ありがとう。
それじゃさ ゴハンの件 よろしく〜〜 」
「 ― わかったわ 」
・・・ あら やだ。
いつもの間にか 押し切られぢゃった?
う〜〜〜ん ・・・?
このヒトって 案外フクザツなの??
ソフトな笑顔に 惑わされちゃ ダメってこと・・?
島村夫人 は なんとな〜〜く憮然とした気分で 夫を眺める。
穏やかで 優しくて。 いつも自分の発言に耳を傾けてくれるヒト。
激しい闘いの中でも そして ごく当たり前の日常でも
いつも 自分を護ってくれるヒト。 安心できる ヒト。
そして。
・・・ わたしの 思い通りになってくれる ・・・
これ 最高に大事!
そんな風に思いこんでいた。 だから 異国の青年と結婚することに
そして 彼の故郷で暮らすことに なんの不安も不満もなかった。
け ど。
もしかして。 彼にはちがう一面も ある・・・?
「 ・・・・・・ 」
その夜 隣でぐっすりと眠るジョーを 彼女はしげしげと眺めていた。
所謂同棲状態から 正式に結婚し夫婦として暮らし始めて。
― そんな < え そうなの? > は 無数にあった。
びっくり だの 衝撃 だの。 うっそぉ〜〜 だの。
まあ だけど なんとか呑み込んできた。
彼は決して無理強いしないし 居丈高に一方的に言い募ることもしない。
― だから だからこそ なんとな〜く彼の言い分を
受け入れてしまう。
このヒトって。
実はとってもフクザツなの かも。
いつも 後になってから あれ? と思うのだが・・・
・・・ まあ 不愉快ではないし不都合でもないので
なんとな〜く < わかったわ やってみる > になる。
「 ・・・ ひょっとしてめちゃくちゃ・陰謀家 ・・? 」
「 ん〜〜〜 え なに? 」
ジョーが 目をあげてこっちを見ている。
「 え?? あ あ〜〜〜 ううん ううん なんでもないわ 」
「 そう? んん〜〜〜 ん〜〜〜 」
最後に お茶を飲み干して ―
彼はきちっと箸を置き 手を合わせた。
「 ごちそうさまでした 」
目の前のお皿は きれ〜〜〜〜に 空。
トーストのパン屑が少し散っていたが 彼はすすす・・・っと
集めて皿に乗せた。
「 ・・・ 」
その長い指を 彼女はなんとなく凝視してしまう。
この指 ・・・ この指 なのよねえ
・・・ きゃ ・・・
なんか 熱いわ きゃ ・・・
昨夜の記憶が突如蘇り 彼女は一人、赤面する。
そして その赤い顔をみられたくなくて 慌ててソッポを向く。
「 あ〜〜〜〜 ウマかったぁ〜〜〜
もうさあ・・・ なんたってウチのメシが最高だよぉ 」
「 あ そ そう? よかったあ 」
「 ん。
あ 博士の予定は〜〜 」
「 ええ 明後日、お戻りよ 」
「 そっか ・・・ なんかやっぱ淋しいね 」
「 そうねえ キッチンも食卓も がらん としてるわ 」
「 うんうん お帰りなさい・ディナー しようか 」
「 あ いいわねえ〜〜 博士のお好きなものって・・・・ 」
「 う〜〜ん??? なんだろうなあ 」
「 ・・・ あ すきやき とか?
・・・ つくったコト ないけど 」
「 スキヤキ かあ ・・・ アレ、ちょっと値が張るんだよな 」
「 ・・・ 高いってこと? スキヤキが? 」
「 スキヤキってね 上等の牛肉を使うんだ。 」
「 ぎゅうにく? ・・・ああ ビーフのことね
・・・ 二ホンでは ビーフは高いの? 」
「 国産和牛とかは も〜〜 ・・・ ぼく 食べたことないけど 」
「 そうなの・・・ じゃあ 別のメニュウにしましょうか 」
「 そうだなあ〜 あ もっと庶民的に 豚シャブはどうかな 」
「 ぶた ・・・ってことは ポークね 」
「 そ。 薄切り豚を さ・・っと湯掻いて食べるんだ。
いろんな野菜もつかえるし おいしいよ 」
「 なら それにしょましょ。 」
「 了解〜〜 それじゃ 買い物リスト作っておくね 」
「 お願いね 」
「 あ ・・・ やっぱり一緒に行こうよ、買い物 」
「 きゃ 嬉しい〜〜〜 」
「 ね? 二人でさあ 相談して買い物、しよ? 」
「 うん ・・・ ふふふ 楽しそう(^^♪
あ そうだわ 博士ってスウィーツとかお好きなのよね 」
「 そうだよねえ 紅茶とかにもジャム、入れてるもんね 」
「 ロシアン・ティ っていうのよ 苺ジャムを使うの。
じゃあ デザート、捜しましょ ジョーも好きでしょ? 」
「 えへへ ・・ じつはね〜〜
あ 一緒に選ぼうよ? ふらんそわあず が好きなのは・・・
え〜〜と もなおう だっけ? 」
「 そうなの〜〜 あのアイス 最高よね? ジョーは ・・・
あ がりがりくん? 」
「 ぴんぽん☆ へへへ 冬でも食べたいんだあ 」
「 博士には ・・ラム・レ―ズン よね 」
「 そうそう ね 帰りにさ 一緒に買い物行こ?
駅の向うのショッピング・モールでさ アイス選んで
豚シャブ用の野菜と肉は 」
「 海岸通り商店街 でしょ?
あそこのお肉屋さんって すごいわよねえ〜〜 」
「 あ そうなんだ? ぼく 料理はあんまり詳しくなくて 」
「 あら わたしもよ。 でもね いろいろ・・・教えてもらったの。 」
「 え どこで 」
「 お肉屋さんや 魚屋さんや 八百屋さんもよ?
これはどうやって食べたら美味しいのですか? って聞くとね
み〜〜んな いっぱい教えてくださるの。 」
「 へえ〜〜 」
「 ほら ジョーが最近 好き! っていう さばのみそに。
あれもねえ 魚屋さんが教えてくれたのよ 」
「 あ そうなんだ?? あれ・・・ おいしいよねえ 」
「 おみそ って美味しいわよね 」
「 じゃ 駅の改札で待ち合わせようよ?
きっちり定時で帰れるように努力するから 」
「 了解。 楽しみだわあ 」
「 ふんふ〜〜ん で〜〜は仕事 がんばるぞ〜〜〜 」
「 わたしもレッスン、頑張るわ 」
「 ん♪ それじゃ あ〜〜 今晩は あのハンバーグ
食べたいなア 」
「 ハンバーグ? ああ この前作ったお豆腐入りのね 」
「 そ♪ アレ 好きなんだ〜〜 リクエストしていい? 」
「 了解 」
「 ふふふ じゃあね イッテキマス 」
キスをして 手を振って。 にこやか〜〜に彼を送り出した けど。
「 ・・・ え? 今晩のメニュウって 」
ふ・・っと 温かくはない風が背中を通りすぎる。
「 今日はわたしも帰りが遅いって 知ってるわよね?
だって帰りに待ち合わせ って決めてもの。
― わかっていて リクエスト したの ・・・? 」
・・・ ハンバーグ ねえ・・・
今晩は 冷凍グラタン チン で済ませる予定だったのに
午後のリハもあるし 帰りはギリギリなの。
レンジでチン に助けられてるのよ?
・・・ はんばーぐ?
豆腐もひき肉も買ってないのよ。
帰りに買って 急いで作るっていうの??
一緒に買い物するのは嬉しいけど
帰りも一緒なら ゴハンの準備は時短になるわ
だから レン・チン なのに。
ハンバーグ ねえ ・・・
なにも考えないで ただ希望を言ったの??
あら・・・・?
なんか 全部ジョーの希望通り になってるわ?
「 やっぱり無理よね。 今晩はレン・チンのグラタンよ 」
きっぱり決めた。
もちろん ジョーは希望が通らなかったから 不機嫌になることはない。
にこやかに 妻の料理を食べ おいしかった〜〜 と言うはずだ。
その笑顔に ウソはない ・・・・ と思う。
彼は 心底、今の家庭生活に満足していて シアワセ なのだ。
「 ジョーもシアワセ、 わたしもシアワセ じゃなくちゃ。
どちらかが我慢するのって 違うと思うわ。
あ 時間〜〜 わたしも出掛けなくちゃ ! 」
パタパタパタ −−− 二階に駆け上る。
「 ― あら 」
ベッドに上に パジャマが置いてある。
「 洗濯機に入れて スイッチon って言ってあるのに・・・ 」
なんかちょっとばかり ザラついた気分だ。
「 ・・・ あ〜 きっと慌ててたのよ。
ええ 忘れちゃったのよね きっと ・・・ 」
― このヒトで よかった のよね
れんあいけっこん で 念願の結婚 で 熱愛中〜 で
そんな中で シアワセのど真ん中で
そんな風に 自分自身に言い聞かせるのは ・・・
やはり妙な気がする。
「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・?
今にこんなコト、気にならなくなるのかしら ・・・ 」
島村夫人は 新婚生活の甘味の中に < 隠し味 > を
見つけ始めていた。
― ジョーって ・・・・?
新婚奥さんは 愛する夫君の横顔をこっそり見つめている。
§ ムッシュウ・ジョー・シマムラ の見解
「 ふふふ。 結婚したんだ! 一家の主 になったんだぜ? 」
ジョーは 鏡の中の自分自身ににこやか〜〜に語りかける。
「 ふっふっふ〜〜〜♪ 知ってるかい ぼくの奥さん。
フランソワーズっていうんだ、フランス人なんだよ〜〜
へへへへ ぼくの奥さんなんだ 島村夫人 なんだよ〜〜 」
もう かれはにまにま笑いが止まらない。
やったあ〜〜〜 家族だよ ぼくの! ぼくだけの!
かれこれ一月 ― うれしはずかし新婚生活、その朝ごとに
彼は鏡の前で にまにま笑い を続けているのだ。
― もちろん 一言も発してはいないし
( 彼の妻は おそろしく耳がいい。 なにせ 003 なんだから )
前後左右、誰もいないことを確認している。
< 一生のお願い! > で 決死の覚悟で 人生で最大の勇気を振り絞り
かちこちに緊張して あとは勇気だけだっ!!! と
ぼくとけっこんしてください
と吼えた。
「 ん〜〜 ・・・ いいわ 」
彼女は あっさりと そう じつにあっさりと承諾した。
― はへ ・・・・ ?
事前の意気込みが素晴らし過ぎたためか 彼はへなへな〜〜 と
その場に座り込んでしまった。
・・・ う そ こ 腰が ・・・
「 あらあ〜〜 そんなに感動した?
うふふ〜〜 わたしの可愛い・キャベツちゃん♪
あいしてるわあ〜〜〜〜〜 んん〜〜〜〜 」
ちゅ。
屈みこみ 彼の顔を両手で掬いあげると 彼女は軽くキスをしてくれた。
「 ま あんまり変わり映えはしないけど ―
仲良くやってきましょうね〜〜〜 ジョーの服とかどうする?
わたしの部屋にもってくる? 」
「 ・・・ あ あのう。 えっと そのう 」
「 ま しばらくは今のままでいっか・・・
そうだわ! 今度の日曜日 ごミサに行ったときに神父様に報告しましょ♪ 」
「 あ ああ あの うん ・・・
! そのう〜〜 ぼく 博士に ご挨拶 して。
きみの兄上や ご両親にも ご挨拶しないと ― 」
ジョーは ようやっと立ち上がり ― 一生懸命姿勢を正した。
ちゃ ちゃんとしなくちゃ ・・・ !
「 ?? どうしたの?? 急にそっくり反って ・・・
ほらあ お腹 出てるでしょ 」
ジョーとしては しゃきっと胸を張ったつもり なのだが。
フランソワーズ先生 は ジョー君のお腹をさわり背筋を真っ直ぐに直した。
「 はい これでいいわ。 真上にね こう〜〜 糸で引っ張られるみたいに
そうそう それが ジョー君のまっすぐ ですよ
はい じゃあ そのまま一番ポジション〜〜 で ドウミ・プリエ〜 」
「 は はい ・・・ じゃ なくて。
だから その ごあいさつ を ・・・ 」
「 ?? あいさつ ・・・って なんの? 」
「 だから そのう〜〜〜 け けっこんのご挨拶 さ・・・
お お嬢さんをぼくにください! 一生大切にします って
ど 土下座しないと ! 」
「 は あ ???? わたし 誰のものでもなくてよ?
あ。 それってもしかして。
二ホンの習慣 なの? 結婚する時の? 」
「 ― え ・・・ しゅ しゅうかん ・・・?
あ あ〜〜〜 まあ ・・・ そう かも 」
「 そっか〜〜 それならしょうがないわね。
ジョーの国の習慣的行事 しなくちゃね 」
「 ― あ〜〜 ふ 二人で 報告に行こ ・・・
それからさ きみは どこで結婚式 したい?
ヨコハマに綺麗な結婚式場 あるって・・・
一緒に下見に行こうか? それとも ホテルとかがいいのかな 」
「 はあああ??? けっこんしき じょう ?? 」
彼の奥さん は またまた目を丸くしてまじまじと彼を見つめている。
ジョーの奥さんは 仏蘭西人 だ。 日本人ではない。
巴里で生まれ巴里で育ち巴里で教育をうけた 生粋のパリジェンヌ。
日本の婚姻あれこれ・・・に纏わる行事・習慣には馴染んでいないし
関心もない。 これは当たり前だろう。
そして いや だから ―
< 口出しせずに〜 だまって俺について来 > るはずは ないのだ。
今まで 多くの戦闘では司令塔の004や002と 丁々発止のやりとりはしても
一旦 決定したら彼女は黙々と自分の持ち場をきっちり守り
自身の業務を遂行していた。
単なる 自己主張のしすぎ や 手前勝手 ではない。
十分に議論して納得すれば 決定事項には従う。
影で文句いったり後からどうこう批判したりはしない。
その点 彼女はまことに完璧なのだ。
すごいなあ ・・・・
ジョーは優柔不断の気が強いので ひたすら感心して
眺めていた。
彼は いつも大勢に従ってきた。 サイレント・マイノリティ だけど
そのことに不満はなかった。
で。 肝心の、いや 問題の家庭生活は ―
たとえば ゴハンと味噌汁について。
ずっと味噌汁はジョーが作っていた。 というか 飲みたい時には
彼は インスタントのを使っていた。
「 味噌汁は ウチで作ったのを飲みたいな 」
それは 彼の秘めたる一大願望だったのであるが ・・・
ついに ある朝 ―
「 あの さ。 一日に一回は味噌汁でごはん したいな
なんて思ってるんだ ぼく。 」
思い切って切り出してみた。
「 みそしる ・・・? ああ ジョーが好きなスープね
いいじゃない? 好きなモノがあるご飯って嬉しいわよね 」
「 ウン ・・・ それで さ。
あのう〜〜 よかったら 興味があったら ・・・作ってくれる?
あ・・ 忙しい時はぼくがつくるからさ 」
「 みそしる って。 作ったこと、ないんだけど・・・
ジョーがカップで飲んでるのでしょう?
・・・ アレ 家庭でもつくれるの? 」
「 簡単だよ〜〜 学校の調理実習でも習うし 」
「 そうなの? じゃあ ジョーも作れるのね 」、
「 あ うん ・・・ まあ ね 」
「 じゃ お願い。 必要なモノ、買い物リストにしてね。
買っておくわ。 」
「 ・・・ うん ・・・ わかった ありがとう 」
「 どういたしまして。 そっか〜 ジョーは みそしる が
好きなのね。 お気に入りメニュウね。 」
「 うん ・・・ まあ ね 」
「 ちゃあんと覚えておくわ。 お誕生日メニュウに入れましょうか 」
「 ・・・あ うん ・・・ 」
誕生日に 喜んで味噌汁、飲むのか・・・
奥さんは ニホンジンじゃないから
そうなる のかなあ
ちょっとばかり憮然としてしまったけれど。
彼女には 裏の意味 など ないのだ。
― そう。 はっきりと言わない自分自身が悪いのだ。
「 味噌汁 きみに作って欲しい って言えばいいんだろうけど ・・・
でもでもでも そんなコト言って 彼女、気を悪くするかも・・・
もしかして 味噌味とか キライかも・・
朝ごはんは ぱりぱりのふらんす・ぱん と コーヒー と
オムレツ で 食べたいんだろうなあ ・・・・ 」
つらつら思い巡らせてゆけば ゆくほど ― 何も言えなくなる。
「 う〜〜ん ・・・ なんつ〜〜か ・・・
味噌汁ごときで せっかくの朝ご飯たいむが暗くなるのは
・・・ ちょっとなあ 」
カサカサ。 シャーー ジャ〜〜〜〜
常備してあるインスタント味噌汁を開ける。
カップ味噌汁は 十分美味しいし、いろいろヴァリエーションもあるので
なかなか気に入っている。
「 ま ・・・ これでも いっか ・・・ 美味しいし
う〜〜ん 今にさあ 彼女が和食が好きになってくれたころに
こそっとリクエストしてみっか ・・・ 」
彼は 自分自身にいろいろと < 言い聞かせ > ていた。
新婚家庭の朝食に 味噌汁の香が漂うことは まだ ない。
後年 ― 時々 ジョーはそんな新婚時代を懐かしく思い出す。
「 そうだよなあ ・・・ 味噌汁は結局 ぼくの担当になったし。
たまあに作ってくれたけど ・・・
そうそう ・・・ 野菜ならなんでもオイシイよ って言ったら
トマトやレタス入り が登場したっけ・・・
あは アレはやっぱりイマイチだよなあ 」
こんな具合に ジョー君の待望の家庭生活は穏やかに明るく楽しく
始まったのだった。
えへへへへ ・・・
毎日 楽しいなあ〜〜〜〜
ぼくの奥さんの言うことに、マチガイはないよ
彼女のする通りにすれば なんでも上手くゆく
彼女がにっこりしてくれると
あっは ・・・ さいこ〜〜〜♪
ぼくはさ この笑顔を護るために生きるんだ!
けど けど ね
たまには ・・・ 聞いてくれる?
ぼくがさあ 〜 やってほしいコトって。
うん たいしたコトじゃないんだけど。
― たとえば。
味噌汁は 鍋でいっぱい作ってほしいなあ
・・・ インスタント・カップ じゃなくて さ。
味噌汁の香で目が覚める ― なあんて
ぼく・・ 夢なんだけど ・・・
にまにま〜〜 ピンク色の日々を送っているが
そのピンクの中にも ちらり ちらり と < ぼくが > が
浮かび始める。
― たとえば
味噌汁以外も時には そろり、とリクエストがしたくなる。
お風呂 帰ったらすぐに入りたいなあ ・・・ とか。
パジャマとタオルさあ お日様に乾したいなあ とか。
やっぱり 一日一食は白いご飯が食べたいなあ とか。
納豆って美味しいだよ パンに乗せて見る? とか。
ふと。 大事なコトに気付いた。
「 ! 弁当も ! おにぎり とか ・・・
無理なら 白いご飯の弁当 食べたい ! 」
もちろん、 今の豪華・ヴォリューム サンドイッチ は大好きだし
毎日 とてもマンゾク ( お腹も心も ) している。
でも さ。 白いメシの弁当 ・・・ 食べたい
「 あのう さ。 弁当なんだけど 」
「 はい? 」
「 ・・・ ごはんの弁当も食べたいな〜〜 って ・・・ 」
「 ごはん? ランチに持ってゆきたいの? 」
「 あ うん ・・・ きみのサンドイッチ、最高〜〜♪
あんな味の ごはんランチ が食べたいな〜〜 って 」
「 そうなの? いいわ。 すいはんき つかって
ごはんランチ つくってみるわね 」
彼女は ごく当たり前の顔で気持ちよく承諾してくれた。
「 え いいの? うわ〜〜〜〜 うれしいなあ〜〜 」
ジョーはもう舞い上がってしまっていた。
・・・ 翌日のお昼タイム ・・・
「 ― うわ ・・・ 」
弁当箱 ( 特大 ) のフタを開け ジョーは絶句した。
白いご飯がぎっちり詰まり その合い間 合い間に
昨夜のハンバーグ や オムレツ や チーズとジャム が
しっかりと挟まっている。
「 ・・・ んんん〜〜 いや ゴハンに味が滲みて・・・
ウマイよ きっと! 」
ジョーは 箸を取り上げると敢然と弁当完食に立ち向かった。
う〜〜〜ん ・・・・?
・・・ シアワセ だよなあ
シアワセだよ、うん!
・・・ そう 多分 ・・・
ちょいと微妙〜〜な気分も流れる時もあったりして・・・
そんな時 ― たまたま掛かってきたドイツからの電話。
「 あ〜〜 アルベルト! 元気〜〜? 」
「 ふん お前も賑やかそうだな 」
「 あ あ〜〜 うん あの さあ ・・・ 」
彼は思わずアルベルトに ちろ・・っと愚痴ってみてしまった。
「 はあん? なんだ お前。 なに ぶつくさ言ってる?
そうしたいのなら 自分でやれ。 」
「 ・・・ あ うん そう なんだけど さ 」
「 手の空いてる方がやればいいだろうが。
どちらかの仕事 と決めるは不自然だ。 」
「 ・・・ あ うん ・・ そっか うん 」
「 なあにを今更。 小学生みたいなこと、言うな。
博士と代わってくれ〜〜 お前とのおしゃべりのために
電話したんじゃないぞ 」
「 あ ごめん〜〜 博士〜〜〜〜〜
アルベルトから 珍しくも電話ですよぉ〜〜〜 」
さて。
こ〜んな 些細な? いや ご本人にとっては 超〜〜重大なモンダイは
二つの台風がこの家にやってきた時に
あとかたもなく ふっとんでいった!
Last updated : 11.22.2022.
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********** 途中ですが
近くにいるから 余計にはっきり言えない のかも・・・
まだ 続きます ・・・